稲川淳二ミステリーナイトツアー2019に行ってきました

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 参加したのは大阪・森ノ宮ピロティホール公演一日目。これが本当に素晴らしいエンターテインメントでした。タイミングは遅くなってしまいましたが、「初めて」を終わらせてきましたよ。生は良いですね。生は良い。

 というのも七月某日、怪談グランプリ2019の観覧に当選しており、その時点では今回の公演が「二回目」の生稲川淳二となる予定でした。しかし、当日に三十九度の熱が出た為欠席。さすがに立てない。例え立てたとしてアレなんですけども。寝込んでいたショックで実は十五日のオンエアをまだ見ていません。行きたかったなあ。

 

 客層は良くも悪くも大変に幅広かったです。また、私がこれまで経験したどの舞台、ライブよりも開演前の現場スタッフによるスマホ注意が厳重だったような印象があります。(イベントそのもののジャンルが根本的に違う為、だからどうだとは言えませんが)ただ、それでも繰り返し聴こえてしまった着信音は間違いなく没入感を損なわせるもので、多少気が散ってしまいました。一つ、残念な話ですね。

 

 内容に移りましょう。まだツアーの途中ですし、大阪公演だけでも4daysの初日でしたから、基本的にネタバレはしない事にします。一部は含まれますので今後参加する予定の方はご注意ください。

 最大の感想として、あまりにも当たり前の事なのですがめちゃくちゃ話が上手い。

 開場から開演まで、いかにもおどろおどろしい雰囲気を醸し出す和室の舞台セットを眺め続けた三十分弱。イベントが始まって最初に目撃したのは客席に手を振りながら現れたにこやかなおじいちゃん(失礼)でした。戸惑いながらも思わず手を振り返す私。まるでトークショーのゲストを出迎えるよう。けれど、やはり壇上に座するのは稲川淳二ただ一人なのです。

 思い返してみれば、二時間ノンストップの怪談ライブでした。アルバムのトラックのような切れ目さえほぼない。あるとすればお茶を飲むタイミングくらいでしょうか。雑談でさえもよく知った怪談のような調子であって、いつの間にか怖い話に移行しているんです。直前まで笑っていた筈なのに、それが一切尾を引かず、「今から怖がらせにくるんだ」というポーズを取る隙が無く、ただただ話に聴き入っていました。特徴的な語り口はそのまま、けれど不思議な程に自然。なんなら、音響や照明の演出さえ余計なのではないかと感じてしまうくらいに。

 一つ一つは独立した怪談であっても、それらを全て合わせたものが一公演になるのですね。セットリストの重要性は何も音楽ライブに限った事ではないと実感。

 なんだかマジックの技術に似ている気がしました。心霊写真のコーナーではそれが顕著に表れていましたよね。特に興味深かったのは写り込んだ幽霊が動くという話。界隈(?)ではある種常識なのかもしれませんが、「なるほど。この世のものではない存在が写真の枠にとらわれる必要は無いんだ!」と感心してしまいました。そりゃそうだ。そして、最も深く印象に残っているのがツアーのお約束だという水辺から顔を出す男性の紹介ですね。「これを見るのが初めての方はおられますか?」「この話は常連の方が私に毎回させるんです」「段々愛着が湧いてきて、名前を付ける事にしましてね」「もう顔を覚えてしまったでしょう」一般的な心霊コンテンツであればその後撮影者や他の被写体に起こった悲劇を語り、恐怖を煽る形が定石ですが、会場に溢れるのは笑いでした。面白い事は面白いがこの時間はなんだろう、と思いかけたところへ続いたのが、「皆さん帰ってシャワーを浴びられますよね」

 瞬間、反射的に同行者の方へ首を向けると、彼女もこちらを見て苦笑いしていました。頭を流している時の無防備な暗闇。浴槽に張られたお湯。想起されるのは水面から半分だけ覗く男性の顔。

 自称・嗜む程度にホラーコンテンツを愛している私ですが、こういった後に引き摺る怖さとは中々得られるものではありません。単に、水場、また風呂場に現れる幽霊の話を語られただけでは私も平然としていた事でしょう。それがここでは怖かったのです。明らかな話術の勝利。怖い!怖いね!と大はしゃぎし、私はシャワーを朝に回す事を決めました。

 コーナーが終わり、後半戦が始まるのかと思えばやってきたのは退場の時間です。ライブのような、舞台のようなクライマックス感は無く、いつの間にか過ぎ去っていた二時間でした。繰り返し訪れている方からしてみると、心霊写真の紹介こそがそういった感覚なのかもしれませんが。

 たった一人の話を聴く為の二時間がこうもあっという間だとは、進んでチケットを確保をした自分自身でさえも予想していませんでした。ホラーが好きならば人生で一度は経験しておきたい。そんな気持ちで参加した公演でしたが、気づけば既に冬のツアーを楽しみに待っています。稲川淳二先生は偉大ですね。実に貴重な体験でした。

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